「伝書鳩よ、夜へ」第4話
「やはり桔梗さん位しか頼る当てが無いんですよ。そこで僕はですね、止む無く桔梗さんにお願いしようと思うわけです」
藤枝は偉く深刻な面持ちでそんな風を言った。
嫌な予感に身構え、もしやいよいよおかしな宗教とか、後頭部の打撲だとかの話が現実に始まるのではと危惧し、同時に、藤枝君はやはり怒っていて、もしや今から惨惨に非難の言葉を浴びせられるのではあるまいかと、神経をピーンと張って次の言葉を待っている。
ーしかし藤枝の用件はまるきり別だった。デニムの後ろポケットから茶封筒を取り出すと、それをすっと桔梗へ差し出したのだった。
それは何の変哲も無い、全くただの、茶封筒としか呼びようのない単純明快の茶封筒であった。唯一特徴は、やけに分厚く膨れ上がった茶封筒であると言う事だ。
「コレ、渡して下さい。アリーさん宛です」
札束でも詰め込んだような膨らみを不審に思った。桔梗は無遠慮と知りつつも、つい、四方八方よりこの茶封筒を眺め吟味した。藤枝は不快もあらわに、
「桔梗さん。これはアリーさん宛の封書なんだから、そういうデリカシーのない挙動は控えてもらいたいですね」
と眉をひそめるのだった。さらには桔梗の疑念を察したのか、
「金銭の貸し借りとか、そういう下世話なモノじゃないです。桔梗さんには到底、僕の思いの深さなんて分かるまい。時間を見てアリーさんに渡して下さい。つまりは伝書鳩の役を任せようって事です」
「ふうん」
桔梗はニヤニヤと藤枝を見た。
「アリーは優しいし、見てくれも藤枝君好みだものねえ」
どうもニヤニヤしてしまう。
藤枝は桔梗の手前、終始仏頂面を決め込んでいたのだが、秘めた恋心をおおっぴらにしたことで、全身を緊張と不安で漲らせていた。
気を揉み、怯え、油汗まで浮かべている。手の平を震わせている。おまけ脚をも震わせ、あまり酷いので、桔梗は藤枝が気の毒に思えてきた。
(第5話へつづく)