「伝書鳩よ、夜へ」第7話
アリーは、その後しばらく仕事にもつかず、療養生活を送っていた。
近況を知った年かさの幼馴染みが、ある日連絡を寄越したことから、彼女の東京生活が始まるキッカケが生まれた。
誘い主は、現在もBooks Yumejiで働くキムであった。
彼女は危ういアリーの精神の灯火を、即、見抜いたのである。
ー自分の幸せを追求しないでいると、気付いた頃にはシワシワの婆さんよ。
この言葉が、内気なアリーの心を動かした。
Books Yumejiの閉店時間は午後7時である。以前は、深夜0時まで営業していたが、それを知るのはもはや古株のキムだけである。当時の様子について聞かれると、キムは決まって「酒臭さが充満して、書棚の本まで酒臭さかったわね」とアッサリ答えた。泥酔したのがハーマンに絡んで、それもこれも上の階のテナントに居酒屋とキャバクラが入ってたせいだったらしい。
居酒屋とキャバクラは2年前に潰れた。
外出先からハーマンが戻る8時までの時間を、アリーと桔梗はくつろいだ様子で留守番していた。気弱な二人は共感出来る事が多く、友人同士でもある。失敗をとやかく言わない為、儚さの漂う風貌も併せ藤枝を魅了しているのであった。又桔梗にとってはアリーとの気楽なお喋りは緊張をほぐしの神経修復に、一役買っていた。
鳩の役割を買って出たのだから、本来すぐにでも手渡すつもりだった。日々タイミングをうかがい、うかがい続けたのは事実だった。が、大の優柔不断が邪魔をして藤枝の恋文は未だカバンの中、かれこれ、3日経っている。
(第8話へつづく)