書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

「色眼鏡」第7話( 全12話)

   結局、どんな煌びやかな衣装を着せても、自分が怯え人形であることには変わりがない。

   公園の全て。それらが手のひらを返すとどうなるのだろうか。どうやら、怯えの宿命にお誂え向きの公園になるらしい。

 

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    明るみは消し去られた。険悪な顔ばかりが薄暗くこちらを振り向いて、冷視線に、自分はいついつまでも刺されるのだろうと思う。

 

   衝動がまた心身へ走った。
   公園で。人前で。恥晒し。馬鹿な、馬鹿なガタガタだ。馬鹿な怯えだ。馬鹿な人形だ。人形は屠殺される、視線に私は屠殺される、冷笑の円の中心に、私の死体が転がり、首も無いやもしれぬ。

 

   その矢先である。馴染み深い声が、彼女の名前を朗々と呼んだのだった。

 「ああ、キキちゃん!いたいた!ここだよ、美味しいコーヒーは!愉快なジョッキコーヒーだよ!」

 

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   三千雄であった。彼の姿はすぐ目に付いた。紅白の縦縞エプロンが従兄の風貌を際立たせている。
  パートナーの湘子が、No.33のフライヤーを配っている。通行人にベラベラと、相手構わず話しかけていた。場所取りのくじ引きにでも負けたのか、他店舗から離れた、狭いスペースで二人はコーヒーを売りさばいている。


  湘子は、フライヤーを配る手を一旦止めて、ズカズカ歩み寄って来た。

  「あらあ、桔梗ちゃん。具合悪いみたいね。深呼吸するといいわよ。心を込めて、深呼吸ってわけ。深呼吸ってね、案外と馬鹿にならないのよ。副交感神経を優位にさせる、お手軽な方法なのよねえ。でもって、それでちょっと落ち着いて来たら、ミッチーのコーヒー飲めばいいのよ。すぐよくなっちゃうのよねえ、ミッチーのを飲むと。ホント不思議な話だわね。…まあとにかく、深呼吸がいいわよ桔梗ちゃん」

 

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   言うだけ言うと、去っていった。すると今度は、間髪いれず三千雄がやって来て、ジョッキコーヒーかと思いきや、従兄が手に持ってきたのはクリアファイルであった。いつもの不可解な自作のイラストやら、詩歌の数々が挟まっている。

   「キキちゃん、見てくれたまえ。このイラストは力作でね。火星人とハンペンの関係性について描いたのだ。これを理解するにはまず、ハンペンの視点に立って、火星人との距離感、火星人についての何を彼が知っているか、考えてもらいたい。すると僕らはおでんの気分にならなくちゃらないんだ」

 

(第8話へつづく)