書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

「あなたは最高」第11話(全20話)

   タラコ色の電車は、急に速度を増して走り始めていた。トットコ走ること30分、S市駅に到着した。



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   駅で降りる乗客は殆ど無かった。

  平日の昼である。閑散としきって、腰の曲がった老人が歩調ゆっくり去って行くともう、人影の一切が消えた。
  キムと桔梗だけが取り残され、四方八方の木蔭から、油蟬の大合唱が百人の赤子の鳴き声と等しい賑々しさで、冒険者達を出迎えていた。

 

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  「凄いわね、なんて言うのかしら、こんな蝉だらけじゃきっと毎夏中耳炎に罹るでしょうよ」

時計を見遣る。

  「シャトルバスの時間、見ておこうじゃないの」

  キムは桔梗を従え改札を出た。後に続く彼女は、呆れるほど命を叫ぶ、この蝉どもの声に圧倒され、息苦しい。ここを気に入らない様子でいる友人にも圧迫されている。

 

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   シャトルバスは1時間に1本間隔である。運悪くたった今、行ってしまったばかりだった。

   雨風に打たれ、汚れを被った運行表。灰色顏は、次の午後4時の発車を告げていた。

   キムは大袈裟に溜息をついた。
   何も無いバスロータリーで、途方にくれる羽目となってしまったのだった。
 
   バス停の裏手に、うらぶれた、それこそ昭和の昔から建っているような2階建てのスーパーあった。

 

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  入ろう、と桔梗がいうと、キムの方が気乗りしない。だがこの盛夏の暑さと陽射しには根負けして、一時しのぎにドアをくぐったのだった。

 

  ーああ、サイテー。サイテーだわ。

  キムはブツブツ言った。

 

 

(第12話へつづく)