書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

「あなたは最高」第14話(全20話)

ーでも、いささか事情が違ったわ」
キムは煙を吐いた。

 

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 「私はただ逃げ出すためだったけど、彼は違った。ちゃんと目的があって、ちゃんと未来を築こうとしていた。キチンと目的があっての訪日だったのよ。つまりね、あたしとはもうその時点で既にバラバラだったわけよ」

  
彼女は拳を握った。

 

  「ねえ、サイテーよ。全部、無駄骨だったんだから。あたし、夢見る前にあんまりにも失望させられたのよ。こんなはずじゃなかったのに。何が一番サイテーかって、あたし自身がサイテーな女になろうとしてるってことよ。浮気なんかされて、夢もないんだから。夢がどういうものかすら、分かっちゃないのよ。あたし、自分が好きじゃないわ。大嫌いよ」

 

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   「そんなことない」

急に大きい声をあげてしまった。慌てて声をひそめる。

   「サイテーなんかじゃない。誰も、誰も彼もサイテーなんかじゃない」

    …そんな哀しい言葉を、口に上らせたら駄目だ。

桔梗は心の内で叫び、キムに伝えたかった。

   ところが友人は鼻を鳴らし、冷笑してみせた。

   「いいわね、キキは。なんだかいつも、お気楽そうで」
   ー違う、と桔梗は反射的に思った。

   お気楽だなんて。愉快だなんて。自然にそんなこと出来たのなら、そもそも神経病みなどなりやしない。サイテー、だなんて。サイアク、だなんて。そんな言葉は要らない。もう充分使い切ったのだ。だから、わざわざ持ち込んじゃいけないんだ。

 

   「違うんだよ。楽しそうに見えても、本当は違うんだ」

桔梗はうつろに言った。

 

(第15話へつづく)