書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

「あなたは最高」第16話(全20話)

   ーなんて下手くそなんだ。話すのが怖い、人間の下手くそだ。

 

f:id:sowhatnobby164:20180917075728j:image


   不安の問題を口にしたものだから、それはつまり鬱屈神経団を呼び寄せる呪文だった。桔梗の手指、強いては身体全部を、このように硬くゴワゴワ苦しめるのは、いつだって彼らなのだ。彼らは何かと付き纏い、執拗な追跡は途切れることなかった。

 

   桔梗は悲しくなって、バスの吊り革の振幅と車窓からの夏空を切なく見つめた。

 

f:id:sowhatnobby164:20180917075953j:image

 

  ー神経症は、神経症のままなのかもしれない。

   最初から、素直に白旗を振るべきだったのかもしれない。そうしたら、きっと楽だったはずだ。

 

 

   (もう、だいぶ疲れている。私は、疲れたんだ)

   神経症にひざまづいてしまえたら。いっそ、彼ら鬱屈神経団へ忠誠を誓ってしまえたらー。そういう選択肢だって、当然あったはずだ。...

 

f:id:sowhatnobby164:20180917075916j:image

 

 

  「まさか今日中に頂けるとは思いませんでした。どうもありがとう。さすがにお嬢さん方はお若いだけあって、力持ちのようだ」

   中規模モールの二階、一番端の店舗だった。ハーマンのメモ通り、「溝口書店」とある。

 

f:id:sowhatnobby164:20180917080309j:image

 

   店舗は仄暗く、客の姿はなかった。どうも湿気っている。挨拶に出た書店主は70過ぎ、痩身の老店主で、同じように暗褐色をした、殆どサングラスのような眼鏡を掛けて、杖をついていた。

 

(第17話へつづく)