書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

「マラカス奏」第14話(全20話)

   

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  彼の眼前には、瓶詰めが四つ並んでいた。その向こう側で、茜が温厚な笑顔を浮かべて待っている。

「何だよ、これ」

瓶には何やら、小豆を小さくしたような、球体色とりどり、まんまる玉がギッシリと詰めてある。―ラムネだろうか。いや、駄菓子の類か。

「もう俺は食い物はいやだからな」

「菊ちゃん、私、いいこと思いついたんだよ」

茜は彼の言葉を完全に無視して、機嫌良さげにそんなことを言う。

「元気になれる方法、見つけたよ」

菊比呂は目の前に隊列組む、ジャムの空き瓶を一つずつ手に取り、しげしげ見つめた。

 

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中身の小粒玉は、どうやら恐れていた食料では無さそうである。茜がティッシュを差し出すと、彼は鼻汁をかみ、一寸落ち着き具合になった。

「…これは、なんだ?」

ひとしきり泣いた後の声には、変なビブラート音が混じって、彼は自嘲気味に笑うのだった。

茜は、お構いなく説明を続けた。

「―これね、BB弾っていうおもちゃの、弾玉。子供の時分、射撃ごっこみたいのが流行ったでしょう。わたしと、大親友だったむっちゃんは、みんなが弾を撃ちまくったあと、夕方頃から道路に出向いて回収したんだ。綺麗でしょう」

 

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茜は立ち上がり、自分用にまたコーヒーを沸かし始めた。節約大前提、薬缶はストーブの上に置いて、ガス代を切り詰める習慣らしい。

 

  泣き疲れた菊比呂は、一寸ぼんやりだ。然し、ぼんやりしようとしまいと、鬱屈は、確実に巣食っている。主観の世界における彼はどん底なのだ。

「…是非とも教えてくれよ。何だってやるさ」

半ばヤケッパチ、茜の勧める元気法は何か、全く想像がつかないものの、少しでも元気になれるんだったら、それで良かった。

 

(第15話へ続く)