「マラカス奏」第15話(最終話)
茜はテーブルの上のジャム瓶二つを自分に、もう二つを菊比呂の前に差し出すと、やおらインターネットラジオを点けたのだった。
すると、かつて菊比呂が熱病に罹ったように聴いていた、七十年代ロックが、オンボロ小屋には似つかないクールさで流れ出した。
茜は手本を示すつもりか、ジャム瓶を振ってみせた。中身のBB弾が上下し、シャカシャカ、マラカスの要領だ。そしてそれを菊比呂にもやるよう、促した。どうやら、これが彼女の言う元気法らしい。
菊比呂は、お人よしで衝動的で変人気質の従妹を相手に、もうまな板の上の鯉である。
(ええい、ここはひとつ、やろうじゃないかよ。馬鹿丸出しにでもしてやるさ)
彼は観念した。―ああ、毒を食らわば皿まで。
やがて何かが吹っ切れた。立ち尽くすのを止め、金品奪うようにBB弾マラカスを素早く手にしたかと思うと、もう、ヤケッパチのヤケッパチ、シャカシャカシャッシャ、シャシャカシャカ、力いっぱい瓶を振ったのだった。
菊比呂は振りに振り続けた。振って、振って、振り落としたかった。彼は情熱のマラカス奏者、シャカシャカシャッシャッシャ。― マイアのこと、モーブのこと、面倒な茜のこと。シャッシャカシャ。―金のこと。火曜日、マークに借りて、それっきりの三千円。シャカシャカシャッシャ。亡くなった隆志兄、可哀相な隆志兄、葬式は氷雨。一寸前まで生姜焼きを食って喜んでいたくせに。では俺の未来は。
マイア、マイアさんは去った、マイアさん......
(了)