MONDAY(全6話)
第一話
眠りから醒め、けれど彼女はしばらく、ベッドの温もりに包まれ呑気である。四月の空気は緩慢だった、レースのカーテンが窓に揺れている。
カーテンはミアが選んだものだった。彼女の恋人は嫌がったが、ミアはお構いなしに購入した。そして今、そのカーテンが平和に、とても平和に揺れている。
(ほら、やっぱり。あたしのセンスに任せれば、いいことづくめじゃない)
彼女は同意を求めるべく、寝返り打ち隣の恋人に向き直った。
―いない。
ミアは身体を起こすと、煙草に火を点けた。目覚めの煙草は、何ともいえない爽快さをもたらす。タカは最初煙を嫌がっていたけれど、段々に理解したようだった。だからミアは、彼の家でもおおっぴらに吸うことが出来る。
一服すると、ベッドから出て、キッチンに向かった。キッチンにも、タカの姿は無かった。ミアはちょっと肩をすくめて、冷蔵庫からジュースを取り出しごくごく喉に流し込む。グラス一杯分を一気に飲んでしまうと、頭のこめかみが、ズキズキしている。
「―タカ?」
トイレをノックして開けたが、いない。シャワーを浴びているかと思えば、浴室にもいない。コンビニか何かに、飲み物でも買いに行ったのだろう。
彼女はベッドに戻り、また、うとうとと、朝の睡魔に身を委ねた。
再び起きた。
日の差す角度が変わっている。身を起こし、欠伸した。何気なく時計を見やると、針は既に午後二時を回っていた。心拍が百の跳躍をした。彼女はアルバイト先のカフェに、電話をかけた。出たのは店長だった。受話器の向こうに、冷淡が漂っている。
「―あなた、覚えていないの?」
と相手は鼻白んだ。
「呆れたわね。…もうね、来ないでほしいのよ。金輪際、二度とね」
通話は一方的に切れた。
朝寝の目が醒めて来る。ミアの脳裏に、昨夜の記憶がようやく蘇って来た。
…LINEがいけなかった。
タカからの返信が三日も来なかったのがいけない。何故かはわからない。メッセージを繰り返したが、相手は常に未読なので、腹が立った。憤慨が勢いづいて、昼夜問わず送る。と、またも未読である。不穏が頭をもたげる。どこからともなく、奇妙なエネルギーがやって来る。彼女は繰り返す。送信。送信、送信…
それで返って来ない。媚びたり催促したり、忙しく熱中する。相手はウンともスンとも言わない。やがて不穏が猛獣に化けた。猛獣は牙を剝いた。大きくミアに襲いかかった。
―飲んだくれて、ボロボロになって。もしかしたら、病気になって。
そんなことを思いついた。恋人の、困りきった顔を浮かべる。すると彼女は小さく笑む。
つづく