書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

THE ゲリラバンド置物人間 Track#3−1

Track#3-1 滅殺!!緊張オノトマペ

’’カタカタ、プルプル、ガッチガチ!排除困難、脱却緊張オノトマペ!’

 

(問題は)

高坂すばるはボサボサの髪を掻きむしる。すると伸びた髪はボサボサを助長して、帳場の彼をより一層、貧乏臭くした。

(問題は、あの子が毎回毎回、俺の前に登場するタイミングがいきなりすぎるんだ。ああ、そうだ、それが問題点だ。その不意打ちが、俺を困惑させるんだ)

 

 

 

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いきなりの登場第一回目は実家帰りのタクシーだった。

彼が乗るタクシーに、彼女は大慌てでノックしたあと、無理やり乗り込んだ。彼は驚いて女を見上げていただけだった。彼女は息を切らせていた。「走って!」と言い放ち、タクシ―は動いた。彼ら二人を乗せたまま、高円寺まで、実際に走った。そして高円寺のどこかへ、女は煙よりもあっさり、消えてしまった。

 

いきなりの登場第二回目はさらにすばるを混乱させた。そしてそれは一昨日の夜のことで、こともあろうに、彼の第二の家・カフェNo.33だ。

 

彼はやはり、呆然として女を見上げるだけで、言葉に詰まって、白痴のように佇んでしまった。彼女が三千雄と湘子(実際には湘子の)従妹であること、名前は「小夜子」ということ、その紹介の文言すら、危うく掴みそこねるところだった。

小夜子は間違いなく、タクシーに乗り込んできたあの晩の女に違いなかった。意思の強そうな鋭角の眉、眉と反して少し垂れた目、何より印象的な泣きぼくろ、斜めがけの赤いショルダーバッグ…

 

 

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彼らは、しばらくの間、小夜子がNo.33でウェイトレスとして働くことになったことをすばるに告げて、確かすばるは小夜子と二三、言葉を交わしたはずだった。

 

小夜子はのんきなものだった。

タクシーに乗り込んできた時は、何かに怯えて、逃げてきたような緊張を表情に走らせていた。その小夜子が、にっこりと笑いかけてなんてした。先日は大変失礼をしました、と礼儀正しく侘びて、長く真っ直ぐの髪がサラサラ揺れて、いい匂いまでさせるものだから、すばるはもう自分が何を言ったのかすら見失って、記憶になんてないのである。

 

そして、彼は書店の閉店時間が近づくにつれ、自らの心悸がじょじょに高まるのを感じた。彼は明らかに高揚していたー、彼は小説の執筆を進めるにも、あの小夜子がいる空間で、今後は執筆作業をすることになるのである。

 

                        (つづく)