THE ゲリラバンド置物人間 Track#2-1
Track#2-1 鳴り響け!わけあり注意報
’歩く先々ぶち当たる。難問奇問、鬼門に疑問!’
金に問題は無い。榎田から貰い受けたクレジットカードは、自由に使える。当本人から許可を得ているから、小夜子に金銭の悩みは無用である。
なぜ、高円寺をほっつき歩いているのか。それは彼女が家出娘だからである。
前橋の生活にも、榎田との新生活にも、小夜子はまったく興味を失って、うんざりしていた。だから、他客の乗ったタクシーに無理やり乗り込んで、ここまで来てしまった。
「地元の名主」という文言に、からきし弱い彼女の母は、縁談を大変喜んだ。しかし実際の榎田はひどい浮気男で、女好きというよりも、病的なまでに強い性欲を、持て余していた。
小夜子の知っている限りでも、三人、女の影がある。三人の女と小夜子を、順々に巡って、それを承知で我慢したのは、あんな喜ぶ母の姿を見たことがなかったからだった。
とりあえず、腹ごしらえをしなければならなかった。彼女は同乗した細身の男に、泊まれる施設が無いか訊くつもりでいたが、男は一切寡黙だった。高円寺駅で下車するなり、すぐさま去っていった。
小夜子も自動的に高円寺駅で降りることになった。タクシーが走っていた間も、二人に会話は一切生まれず、けれどそれはそれで、構わなかった。無礼を働いたのだし、当然のことだと彼女は内省兼ねてそう思った。
最初に見つけた、駅前のカフェレストランに入った。
店内は二階で、混雑していた。談笑する声はどれも比較的若かった。同世代か、少し上くらいの人間が集っている。誰も彼も、ある種独特なセンスの服を来て、大音量のBGMが彼らの気分の高揚を代弁しているかのようだった。そう言えば、今日は金曜日だった。
小夜子にはこの、見知らぬ街の見知らぬ人たちに紛れこんだ自分が、切ないほど自由であることに気付いた。その孤独は心地よかった。浸ろうと思えばいつまでも浸りきっていることだって、出来そうだった。それは、家出というトンデモナイ手段を講じて掴み取った、ただいっときだけの、貴重な孤独に過ぎないのだが。
窓際席の彼女は、ボンヤリ、いや、ウットリ、熱を帯びた好奇の眼で、高円寺駅を発着する電車の行き交う風景を、しばし夢中に、見つめ続けていた。
(つづく)