書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

MONDAY(全6話)

 

第三話

 

 

 馬鹿馬鹿しいほど晴れている。

 四月の空は少しの窮屈に耐えつつ、晴れていた。大荷物抱えたミアの前を、まだあどけないスーツ姿達が、不慣れな様子で、先輩スーツの後に続き、通った。三、四人は通った。いや、もっと通ったかもしれない。

 

 もとより就職せずに、カフェのアルバイトで生計を立てているミアは、これらの人々を眼にすると、意識か無意識か、劣等の味が口中に広がるのを感じる。

 

 彼女は自販機の前に立ち、タクシーを呼ぶか迷った。こんな大荷物で、ここ国分寺から高円寺まで帰るのが、面倒で面倒で仕方ない。

 

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  ―それにしても、喉が渇く。

 缶ジュース達が、兵士の顔で隊列組んでいる。ミアはそこに、エナジードリンクを見出した。これを飲めば、最悪な気分を払拭出来るように思う。財布を取り出すと、ところが中身はスッカラカン、いや、正確には五円玉と十円玉が一枚ずつである。紙幣は姿無い。代わりに大量のレシートが乱雑に突っ込まれている。居酒屋、アルバイト先のカフェバー、コンビニ…、酒に費やした昨晩を、それらが冷たく、動かぬ証拠として彼女に迫った。

 

 レシート合計額はざっと三万、泥酔の結果、残った金がこの五円玉と十円玉。それが強烈な現実である。給料日は幾日も先だった。預金の習慣も、皆無だ。つまりミアには、この、ただ二枚の貨銭が全財産であり、おまけ今しがた、彼女は職を解雇されている。

 (何よ、このくらい。落ち着きなさいよ)

彼女は気丈を努め、努めた気丈の先に煙草があった。マルボロは残すところ五本だが、これもすぐに、消費してしまうことくらい見当が着いた。

 (で、あたしはどうやって高円寺に帰るわけ?)

 

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 不安を食った。それは砂のようにジャリジャリして、これ以上なく不味い飯だった。二本目の煙草に、火を点けた。彼女は煙とため息を同時に吐いた。

 

 ―結局、タカしか頼れる当ては無い。電話し、助けを乞うより手は無いのである。彼女はひとりとして、相談出来る友人を持っていなかった。

 ちょっとは躊躇もある。が、タカに、電話をかけた。

 どうやらSNS上では、ブロックされている。彼女は残った選択肢、直接電話をかける手段を採ると決め、何度とかけた。それに対して、何コールしようと、彼女が報われることは、とうとう、一度とて無かった。相手は動かない。沈黙と、無関心だけが存在して、するとまた、ミアは無関心と交わり苛立ちの猛獣を受胎するのである。…

 

                              つづく