THE ゲリラバンド置物人間 Track#2-2
Track#2-2 鳴り響け!わけあり注意報
’歩く先々ぶち当たる。難問奇問、鬼門に疑問!’
榎田は四十過ぎ、頭髪はだいぶ後退し、体躯に筋肉の下地はあったが、運動不足睡眠不足・美食過食などが災いし、全体的に、中年の金太郎風である。その榎田が、やたらと小夜子に付きまとうのには、彼女があまりに新鮮だったからだった。
二周り若く、多くの小男が好む、長身の美女。おまけに周りがハラハラするような言動の頼りのなさが、彼の男を男らしく魅了してしまった。
「それで?今、どこなの?迎えに行く」
小夜子は榎田と通話する最中ずっと、無法図に、神経質に、街をぐるぐる歩き回った。
彼は怒らせると本当に怖かった。正論をついてくる。目から一切の表情が消え、論理で攻めてくる。
地元前橋には彼のオフィスビルがある。彼の経営するカフェバーが乱立し、ほとんど、彼の王国となりつつあるといってよい。
ビジネス成功者の榎田は、サイコパスでもあった。切り捨てる時はどんな親しい人間であろうと切り捨て、踏みつけるものは徹底的に踏みつけ見せつけにする冷酷さを持っていた。女にしても、狙った女は何としてでも手に入れた。飽きれば捨てた。
「で、どこ?」
疲れるのだった。怖いし疲れるし、ハゲだしデブだった。無法図に歩く街は、だんだん薄暗くなって、小夜子は、こんな見知らぬ土地に来てしまった自分があまりに短絡的だったのでは、と後悔しかけていた。先程の、カフェでの高揚は消え失せていた。
全て白状して、榎田に迎えに来てもらったほうが、いいような気もしてくる。
母にガンガン説教される。榎田には冷たく叱られる。榎田王国に戻り、結局、縁談と言いつつ、いいように遊ばれるのくらい、見え透いているのだ。使い捨ての奴隷労働をさせられるだけだ。若い女だからと言って、何も見通せないと思うのは間違いだ。
「なんで、言えないわけ?あなた、言えないようなこと、してるんだろう」
電話の向こうで、榎田が苛立ちに唸り始めた。小夜子は何も言えず、押し黙って、やはり無法図に街を歩いた。iPhoneを持つ手は、小刻みに震えて、彼女はどうにもならず、ついに立ち尽くした。彼女は一巡して高円寺駅に戻る途へと戻ってしまっていた。
ダダダダダダ、地響きがする。高架上のオレンジ色の電車を見上げて、けれど地響きは電車によるものでは無かった。男だ。男が二人、それもガタイのいいのが二人、全速力で商店街を走っているのである。
「早く!」
片方が叫んだ。
「ラガー、その子、とっ捕まえてちょうだい!」
それと同時に、ラガーと呼ばれた方の男が、とつぜん小夜子にタックルを決め、小夜子はそのまま路に倒れた。iPhoneがすっ飛び、カラカラカラと乾いた音立て転がっていった。
(つづく)