書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

THE ゲリラバンド置物人間 Track#3-2

Track#3-2 滅殺!!緊張オノトマペ ’’カタカタ、プルプル、ガッチガチ!排除困難、脱却緊張オノトマペ!’ すばるが伯父が亡くなっあとの高坂書店を継いで、二年になる。 古書店で、おまけに高円寺にあるとなると、本の虫の彼としては、これ以上ないオファーを…

THE ゲリラバンド置物人間 Track#3−1

Track#3-1 滅殺!!緊張オノトマペ ’’カタカタ、プルプル、ガッチガチ!排除困難、脱却緊張オノトマペ!’ (問題は) 高坂すばるはボサボサの髪を掻きむしる。すると伸びた髪はボサボサを助長して、帳場の彼をより一層、貧乏臭くした。 (問題は、あの子が毎…

THE ゲリラバンド置物人間 Track#2-4

Track#2-4 鳴り響け!わけあり注意報 ’歩く先々ぶち当たる。難問奇問、鬼門に疑問!’ (前回までのあらすじ) 高円寺駅前でのタックルにより、小夜子のiPhoneは大破した。知り合ったばかりの竹内友尊、成部リキに連れられて、小夜子は純喫茶でクリームソーダ…

THE ゲリラバンド置物人間 Track#2-3

Track#2-3 鳴り響け!わけあり注意報 ’歩く先々ぶち当たる。難問奇問、鬼門に疑問!’ (前回までのあらすじ) 家出少女の小夜子は、駅前のYonchome Cafeで、見知らぬ土地での孤独をしばし味わい、休息する。しかしフィアンセの榎田からの電話が入り、凍りつ…

THE ゲリラバンド置物人間 Track#2-2

Track#2-2 鳴り響け!わけあり注意報 ’歩く先々ぶち当たる。難問奇問、鬼門に疑問!’ 榎田は四十過ぎ、頭髪はだいぶ後退し、体躯に筋肉の下地はあったが、運動不足睡眠不足・美食過食などが災いし、全体的に、中年の金太郎風である。その榎田が、やたらと小…

THE ゲリラバンド置物人間 Track#2-1

Track#2-1 鳴り響け!わけあり注意報 ’歩く先々ぶち当たる。難問奇問、鬼門に疑問!’ 金に問題は無い。榎田から貰い受けたクレジットカードは、自由に使える。当本人から許可を得ているから、小夜子に金銭の悩みは無用である。 なぜ、高円寺をほっつき歩いて…

THE ゲリラバンド置物人間 Track#1-3

Track1−3 知ったかぶり人生難 ’’知性!品性!貧困知!貧困品格、我らの有閑、人生難!’’ 前回までのあらすじ) カフェ・No.33の店主三千雄、そしてそのガールフレンドの湘子より「暇儲け」の誘いを受け、拒めど結局付き合わされる羽目になった高坂すばる。夏…

THE ゲリラバンド置物人間 Track#1-2

Track#1-2 知ったかぶり人生難 ’’知性!品性!貧困知!貧困品格、我らの有閑、人生難!’’ 「あれはよ、要するに釣り銭泥棒じゃねえか」 高坂すばるは忌々しそうに湘子を見遣って、舌打ちした。湘子は屁でもないらしく、 「ふうん。健全な、暇つぶしなのにぃ…

THE ゲリラバンド置物人間 Track#1-1

Track#1-1 知ったかぶり人生難 ’’知性!品性!貧困知!貧困品格、我らの有閑、人生難!’’ 「へんな女がいてよ」 カフェNo.33店主と、その連れ合いである湘子は、独語する友人の姿に、素早く視線を投げた。そして、示し合うよう頷いた。 「そのひとは、美人さ…

THE ゲリラバンド・置物人間 結成前夜

バンドメンバー紹介 ○vol/タンバリン...奏 小夜子…家出娘。家出先で辿り着いた高円寺の街で、マイクを握ることになる。 ○Bs.竹内 友尊…元大学ラグビー部員。筋肉バカ。周囲からはラガーの愛称で呼ばれている。 ○Gtr.成部 リキ…「置物人間」のバンドリーダー…

宇宙の理(全6話・最終話)

最終話 一度冴えた目に反し、横たえた身体は深くマットレスに沈んでいた。昨日、アルバイトを終えたのは…確か十一時。そのあと帰宅、菊比呂の持ち帰った弁当を三等分にして。台本の最終チェックをして。それで―。午前二時を過ぎてから寝た。たぶん。だとした…

宇宙の理(全6話)

第五話 翌々日になって、オーディションの通知が小夜子のもとへ届いた。書類選考を通過し、三日後の九月七日、西新宿の会場まで来るよう達示が来たのだった。 成部は薄い反応しか見せなかった。 「へーえ」 先日の臭気の件があって以来、機嫌が悪い。大体、…

宇宙の理(全6話)

第4話 「ふうん。フランス映画でいいんじゃない?」 そんな風に、難儀無く、ぱぱっと選んだ。こういうことに関して、菊比呂は玄人である。 『橋の上の娘』と、『スローガン』、二本のDVDを借りて、二人はレンタルビデオショップを後にした。 二人でブラブラ…

宇宙の理(全6話)

第三話 「へえ、土日もシフト入ったんだ」 きれいな爪をしている。ピンク・ベージュの。 趣味が良い。プロの術を施されたのだろう。テーブルを拭くと、ネイルの色彩が、残像描き、まばゆい弧を描く。小夜子の眼は、それを注視した。 ―優月が、急に顔を上げた…

宇宙の理(全6話)

第2話 「アンタ、何でもかんでも顔に出しすぎよ。おこちゃまね」 「菊ちゃんは?」 「菊比呂?知らないわよ。あんなオカマ」 「成部だって、同じ組合でしょうが」 小夜子はため息した。 「うまくいかないことばっかりね」 それだけ言うと、自室に戻った。 …

宇宙の理(全6話)

第1話 確かに博士は、高円寺文庫センターの前に座している。菊比呂の言っていた通りだ。 時計を見遣る。深夜十一時半を過ぎていた。文庫センターは大抵零時まで開けいている。馴染みのアルバイトに頼めば、更に三十分延びる。 どれくらい、歩いたろう。しこ…

MONDAY(全6話)

最終話 「おい、」 ―声がした。 声は太かった。ぐっ、と肩を掴む者がある。身体を前後に揺すられる。ミアは薄く目覚め、ゆっくり、鈍く、瞳を開けた。―辺りは闇に塗れ、どうやら日は沈んだらしい。 「おい、起きろ」 声の主は繰り返す。修理工だ。野太く響か…

MONDAY(全6話)

第五話 「…とまあ、そんなわけよ」 「へえ、そりゃ大変だな」 修理工はうなずいてみせた。うなずくと、禿げかかっている頭頂部が露骨である。後部座席のミアも、同意を取れたとみて、深々うなずく。 「まったくよね」 「いや、あんたじゃない。その男の方が…

MONDAY(全6話)

第四話 おい!やめないか!」 つなぎ服の男が、バタバタと駆け寄って来た。「壊れちまう!」 喉が乾いて、なのに十円玉五円玉である。購入ボタンをしつこく押すも、自販機は一切黙り込んで、それはタカの沈黙に似ている。段々に、自販機がタカの姿に見えて来…

MONDAY(全6話)

第三話 馬鹿馬鹿しいほど晴れている。 四月の空は少しの窮屈に耐えつつ、晴れていた。大荷物抱えたミアの前を、まだあどけないスーツ姿達が、不慣れな様子で、先輩スーツの後に続き、通った。三、四人は通った。いや、もっと通ったかもしれない。 もとより就…

MONDAY(全6話)

第二話 今日の彼女は大変平和である。レースカーテンの、あの揺らぎのように。 タカは泥酔の自分を迎えに来たし、介抱もした。ミアは彼の愛情を確認出来たから満足である。最初からそうすれば良かった、まどろみながら思う。 (アルバイトをクビになったこと…

MONDAY(全6話)

第一話 眠りから醒め、けれど彼女はしばらく、ベッドの温もりに包まれ呑気である。四月の空気は緩慢だった、レースのカーテンが窓に揺れている。 カーテンはミアが選んだものだった。彼女の恋人は嫌がったが、ミアはお構いなしに購入した。そして今、そのカ…

きっと、世界中探しても、居場所は無かった。何故なら、世界は眼であり、視線である。そこらじゅう、眼という眼が飛び交って、何処までも付け回してくるのだから。 優月はかつて、「花園の住人」である自分自身が、一等、自慢だった。ランウェイを進む彼女は…

おでんの気持ち 第二話(全二話)

「このカフェだってそうよ。夜型人間・ダメ人間のためのカフェなんだから、みんなもっと遅い時間に来て、本でも読むか、音楽聴くかすりゃいいのよ。闇あってこその人生じゃないの。リクエストがあればミッチーのLPレコードがあるから、いくらでも大音量でか…

おでんの気持ち(全二話)

(どんどん埋没している。最後は、きっと、墓穴だ) 書いて消し、消しては書いたが、いっこうに進まぬ。ノートはただ、黒ずんでゆくだけである。三時間が経過した。 (梶井は三十一で夭折した。芥川も、太宰も、三十代でサヨナラだった) 通りを眺めた。 (-俺は…

宵闇ゆく(一話読み切り)

あんまり耳が膨張するものだから、閉ざしてしまいたい。何も、誰の声も聴きたくない。何も、知りたくなんかなかった。 街は弛緩している。花芽の匂いが、しどけなく土の温気に溶けていた。それはサイレンの歌声に似て、通行人達を惑わせている。呑気なのだ。…

「マラカス奏」第15話(最終話)

茜はテーブルの上のジャム瓶二つを自分に、もう二つを菊比呂の前に差し出すと、やおらインターネットラジオを点けたのだった。 すると、かつて菊比呂が熱病に罹ったように聴いていた、七十年代ロックが、オンボロ小屋には似つかないクールさで流れ出した。 …

「マラカス奏」第14話(全15話)

彼の眼前には、瓶詰めが四つ並んでいた。その向こう側で、茜が温厚な笑顔を浮かべて待っている。 「何だよ、これ」 瓶には何やら、小豆を小さくしたような、球体色とりどり、まんまる玉がギッシリと詰めてある。―ラムネだろうか。いや、駄菓子の類か。 「も…

「マラカス奏」第13話(全15話)

茜が、おかわりを注ごうとしていた。 「いらない。もう、本当にいらない」 彼は慌てて従妹を制した。茜には意外だったらしい。 「菊ちゃん、遠慮はいらないよ。寒いんでしょう」 「ちっとも寒くなんかない、いらない。絶対にいらない」 菊比呂はカップを手で…

「マラカス奏」第12話(全15話)

彼の災難は続いた。茜の淹れたコーヒーはろくな代物ではなかった。 あまりに不味いので、どうしても全部飲み干す気になれずにいるところへ、夕食に、とグラノーラなんぞを勧めて来たので、彼は絶望したように、「過酷な人生、罰ゲーム」だの、「俺のカルマ……