書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

THE ゲリラバンド置物人間 Track#1-1

Track#1-1 知ったかぶり人生難

’’知性!品性!貧困知!貧困品格、我らの有閑、人生難!’’

 

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 「へんな女がいてよ」

 カフェNo.33店主と、その連れ合いである湘子は、独語する友人の姿に、素早く視線を投げた。そして、示し合うよう頷いた。

「そのひとは、美人さん?」

と店主の三千雄。

「美人でしょう」

と湘子。

「すばる君は、どうも、面食い癖が酷いからなあ」

三千雄がコーヒーを注ぐ間も、高坂すばるは心ここにあらずで、黙りこくって窓の外の風景を見たりするものだから、何だか少女じみて見てられない。湘子は内心呆れて、すばるが言葉を付け足すのを待った。

 「…いきなりタクシーに乗り込んできて、」

すばるはペン先でノートを突っついた。

「そんで、おんなじ高円寺駅で降りたかと思ったら、いつの間にかどっかに消えていったんだ」

彼は文庫本に眼を落とし、それきり黙り込んでしまった。

 

 

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 「さては、恋かな」

 三千雄のカフェNo.33のキッチンは狭いながらも愉快な彩りでいっぱいである。調理は彼の担当である。コーヒーは深煎の、重め、が彼の好みらしい。店内には焙煎したての豆が、溢れんばかりに芳香放ち、みっしり充満、それこそ店ごとがコーヒーの贈答品のようである。訪れた誰しもが、彼のコーヒーに洗脳されるという噂まであるほどだ。

 パートナーの湘子はウェイトレス兼、調理補助。二人三脚で営むこのカフェは、夕方頃から開店し、深夜営業する。高坂すばるはここの常連であり、二人とは旧い友人同士である。

「文学なんて、やってる場合じゃないわよねえ」

「すばる君は、不器用な男だからなあ」

二人は心配顔して、カウンター越しから、彼の憂い顔を覗いている。

 

 

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「…それで、今晩の暇儲け、すばる君参加するの?」

閉店時刻が迫ると、湘子がスタスタと歩み寄り、すばるのテーブルの上も拭いて片付けた。すばるはすばるで、肩筋のコリに悩まされているので、もう帰ろうかと言う時の頃であった。

「あ?」

「あ?じゃないわよ。暇儲けに、来るかって聞いてるのよ」

 

                      つづく