書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

THE ゲリラバンド置物人間 Track#2-3

Track#2-3 鳴り響け!わけあり注意報

’歩く先々ぶち当たる。難問奇問、鬼門に疑問!’

 

 

(前回までのあらすじ)

家出少女の小夜子は、駅前のYonchome Cafeで、見知らぬ土地での孤独をしばし味わい、休息する。しかしフィアンセの榎田からの電話が入り、凍りついてしまった小夜子に、厳しい詰問が待ち受けているかと思われた矢先、背後から全力ダッシュで走ってきた男に、小夜子は不意のタックルをくらい、iPhoneもすっ飛び転がっていった。壊れなければよいのだが…

 

                   *

 

 「あら、人違いだわ」

後から駆けつけたもう片方が言って、小夜子のiPhoneを拾い上げた。

 「悪かったわね。あんたじゃなかったわ。さっき、どっかのババアが小銭入れ盗んでね。香港にいたころの、思い出のあるガマ口だったのよ」

そう女言葉で話し、男は小夜子のiPhoneをハンカチに包んで拾いあげたが、あー、だめね壊れたわ、と独語するにとどまった。

 もう片方、タックルをしかけた方の男は、ぽけーとその場に突っ立っている。

「…姫…」

小夜子はクビを傾げた。ラガーはハッと正気に戻ると、大急ぎでiPhoneを相棒の男からひったくると、Tシャツの裾で丁寧に拭き拭き、彼女に恭しく差し出して、

「ええーっと、俺、竹内友尊っていいます」

と突然名を名乗った。

「そして俺は今から一緒に、ケイタイショップへお供致します」

 

 

 

f:id:sowhatnobby164:20200731125058j:plain

 

 

 iPhoneはまったく破損しており、すぐには、いや、もうもとには戻らないとのことだった。

「メーカーへ修理に出しても、おそらく買い替えるしかないです。どっちにしてももう買い替えの時期ですよね。バッテリーの消費、すごく早くなってませんでしたか?」…

 

 

 途方に暮れる小夜子を、励ますつもりなのか、タックルの罪滅ぼしなのか、男二人は北口に伸びる商店街の純喫茶へと連れてゆき、彼女の好きなものをおごると申し出た。小夜子はクリームソーダをオーダーした。

 

「平和ねえ」

もう片方の男は成部リキ、という名だった。友尊と同じバンドのメンバーで、香港へ一ヶ月ほど滞在して帰国したばかりだという。バンド活動もしばらく休止していた、などと話した。

 

「いいわねえー、家出娘。家出娘とクリームソーダって、何だか妙に合うわね。平和だわあ」

成部リキはどら猫が喉鳴らすように言って、小夜子を愉しげに見ている。

 

 

スッカリ榎田のことを忘れていた。忘れることすら、忘れてしまっていた。今、この眼の前に並んで座る、タックルまでくらわしてきた変てこな男二人に、小夜子は興味津々だったのである。

 

                               (つづく)