書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

「廻田の雨降り」第12話

    徐々に客の入りが増えて、カフェNo.33はようやく稼働らしい稼働を始めた。

 

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   時刻は午後三時、おしゃべり目的の近隣の主婦一群が現れたのを皮切りに、大学生、アルバイト前のフリーターなど比較的若い世代が来店、このあたりはノートを広げるか週刊誌を広げるかした。

 

   さらには中高年のダンスサークル仲間あたりも和気あいあいと登場し、四時が近付く頃には出勤前のホステスもチラホラと増え、しかしながら香水の匂いが過ぎると、湘子にキッパリ入店を断られてしまうのだった。ー店内の煙草は許せど香水許すまじ。三千雄共々そう唱っているのである。

 

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  あっという間に老若男女ごった煮のスープボウルとなった。

 

  No.33は稀に見る混雑ぶりを遂げていた。向かいのテーブル、横のテーブルと順々埋まり、やがては桔梗を囲うようにしてお客達が座していた。

   誰もが賑々しく笑い、談笑の混声大合唱団と化し上機嫌だった。桔梗の神経にはこれがどうも堪えた。

 

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  本への集中は削がれ、初めはほんの軽い苛立ちのような程度であった。

  むろん、苛立ちはこのお客達に向けてではない。これは律儀の読書を成せない、ただ自分自身への苛立ちである。

 

  桔梗はもはや読み進められず「パリの胃袋」を閉じることを悔やみ、表紙のゾラの写真を恨めしい目つきで見つめまた悔やむのだった。

 

   ーこのままではようやく読むを可能にした、せっかくの時間が無駄になってしまう。

 

                             (第13話へつづく)