書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

「廻田の雨降り」第6話

  快晴、程よい風。理想的な五月晴れである。        

 

まったく、こんな気分の回復が待っていたとは手持ち無沙汰にも案外希望が持てる。

 

  ーそう思った途端、桔梗は急に調子付いて、もう口笛など吹いているのである。

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  フフフ、乱反射の陽光と来ればお気に入りのサングラスの登場だ。これでレゲエでも聴いてみろ、ご機嫌はマックス、あたし陽気、皆さん陽気。世間じゅうどこも大歓迎!

 

   天気の良し悪しとは何という威力か。ただスッカリピッカリ晴れている、それだけのことが桔梗の重い頭を持ち上げて、明朗な単純思考、愉快愉快と笑う頭に切り替えてしまう。理由のつかない心象変化、表情の緩みに硬直、不規則に舞い込む幸福感、兎にも角にも、くるくる回転でまこと忙しいのだが、この変化の訪れがあることで桔梗の精神生活は人よりも圧倒的な色彩に満ちていた。

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   ポケットに突っ込んだ自転車の鍵をゴソゴソ片手で探っていると、頭上からホコリの様なものがハラハラと降って来た。見上げた先は燕の巣だった。二階の屋根の軒先に燕が巣食っているのである。親燕だろうか、慌ただしく羽ばたいて、低く二匹が飛んだと思うと、もう次の瞬間にはどこかへと姿を消していた。        

  桔梗は何となくそれを見つめていたものの、気には留めずにただ、レゲエとアイスコーヒーがいかに合う日和であるかを考えていた。そして朝のウツウツのことは考えてもみずにいる。

   

   それら鬱屈の集団は、晴天の彼方、乱反射の鏡の向こう側の世界へと既に引っ越して行ったようで、桔梗の思考は軽やかに弾み始めていたのだった。

 

                                   (第7話につづく)