書生のびのお店番日誌

書生のびによる、人生行路観察記

「あなたは最高」第8話(全20話)

   (前回までのあらすじ)

店主ハーマンの指示を受け、S市まで出向くことになったキムと桔梗。2人は互い、苦手意識を持つ同士である。桔梗は辟易し、すでに疲労感に参っていた。....

 

 

 

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  ガタゴト揺らされ、しかし二人に交わされる言葉は無い。居心地の悪さだけが、両者の間に色濃く滲んでいた。      
   列車の振動は、途切れることなく気まずさをお膳立するのであった。

 

   T線へ乗車した。

   2人は急行列車の発車時刻にギリギリ間に合った。

 

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   S市駅はT線の終点から3つ手前と遠い。急行ではたったの4駅でついてしまうほどの手近さだった。拍子抜けしたが、桔梗は命拾いをした心地で、深々座席に背もたれた。

   キムは相変わらず、何とはない一言を時々紡ぎ、やはり時々、桔梗を見遣った。桔梗はというと、ビクビクご機嫌伺いでこっそりキムを見遣る。

 

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   見遣りのタイミングの妙か、あるとき一瞬、互いを捉えた。偶然出会った目ー、もしかしたらこのようにしっかり、互いの目と目が合ったのは、出会って以来、もしかしたら数年の付き合いに於いて初めてのことかもしれなかった。

  「暑いったらありゃしないわね」

またそう言う。だがそこには、これまでの響きとは異なって、なにか、待ち侘びていたような親密さが含まれていた。

  「そうだね」

桔梗はぎこちない、しかし同様の親しみを込めた笑みを返した。すると、キムは、急に打ち解けた様子を見せて、どうやらそれは独り言もどきのつぶやきが、ようやく不在だった聞き手を捉えたと言わんばかりであった。

 

(第9話へつづく)