「マラカス奏」第7話(全15話)
マークが小さくあくびした。自分と蓉子、菊比呂の分のホットチョコレートを淹れた。そして、それぞれが飲んだ。
しばし味わってから、マグカップを料理台に置いたマークは、いつもの間延びした声で、
「クリスマスは何処へ行こう」
と蓉子に目を向けた。温泉がいい、と彼女は言った。あれこれ、行きたい場所が浮かんだらしく、やがて十くらいもの候補地が挙ってしまった。マークは、ふーむと顎をさすって、最終的に、二人は行き先を御殿場に決めた。寝不足の茜は、この会話をぼうと聞き流している。
「ああ、何だよ。いいなあ、イチャつきたいもんだな」
菊比呂は呟いて、
「俺はといえば、痴女専用の男なんだよ。ヘンタイばかりにもてて、嬉かねえな。俺は、マークが羨ましいよ。あの二人は充実してるじゃないか」
恨めしそうに独語した。
「俺の心なんて、カスッカスのスッカラカンだよ。高貴なマイアさんは、高貴がゆえに俺を見捨てたんだ。凍える日に隣を行くのが従妹の茜じゃあ、テンションも下がるな。不条理、不幸の星だよ。生まれて来て、どうもスミマセン」
薄っぺらい真っ赤なレザーコートを羽織り、同じように真っ赤な菊比呂の長髪は、次第強まる寒風になびいて、カサカサと傷みきっていた。陽だまりの昼から一転、寒波近付く街は凍え縮んでいる。
(第8話へつづく)